はじめに

「最近コンビニのおにぎりが高くなったなぁ……」
と、思わず呟いてしまったことはありませんか?
あるとしたら……あなたは既にエコノミストです!
……知らない奴に自分が何者か断言されるなんて、こんなに怖いことはありますまい。
しかも『既に』と来ては、やり口がほとんどショッカーです。
怖い目に合わせてしまったことを、心よりお詫び申し上げます……。
しかし残念ながら、あなたはやはりすでにエコノミストなのです!
おにぎりの値段を気にした、それだけで!
コンビニのおにぎり一つの価格が変わったということで、
実は日本経済の動向に、大きく繋がっているのですから!
本稿ではセブン&アイ・ホールディングスを例に取り、
おにぎりの価格変動から株価の動き、
そして日本経済全体への影響まで、段階を追って解説していきます!
第1章:セブン&アイの株価、もとい……『株価』そのものについて
なぜセブン&アイを例にとるのか?
については追々ご説明いたしますので、少々お待ちください。
シンプルに業界大手だから……というのはもちろんあります。
さて、セブン&アイの株価が、おにぎりの値段の変動から見える……
という話の本題に入る前に
「そもそも株価ってなに?」という人もいるでしょう。
「株価ってなにかピンと来ないのに、それでも自分はエコノミストなの?」
と思った方。そうです。それでもあなたはエコノミストなのです。
では『株価』とはなんのか。
それを先ずはっきりとさせておきましょう。

株式市場でその企業の株式が幾らで取引されているかを示しています。
より簡単に言えば、企業の価値を表す数字である、ともいえるでしょう。
高ければ高いほど、その企業が市場で高く評価されていることを意味します。
株価は企業の業績、将来性、そして経済全体の状況など、様々な要因によって変動します。
セブン&アイの最新の株価(2024年11月5日時点)は4,500円です。
これは同じ小売業界の他社と比べると高い水準にあります。
例えば、ファミリーマートを展開するイオンの株価が2,800円、
ローソンの株価が3,200円であることを考えると、
セブン&アイの株価がいかに高いかがわかります。
……と、ここまでで株価については明らかになったでしょうか?
なっていなかったとしてはこちらの不手際です。
重ね重ねお詫び申し上げます。
しかしこれ以上本題から遠ざかるのもなんなので
とりあえず『明らかになった』ということにして、
次章でいよいよ本題に入ることにさせてください……!
第2章:おにぎりの値段からセブン&アイの株価を読み解く

2023年、セブンイレブンの「手巻おにぎり 紅鮭」の価格が、
160円から170円に値上げされました。
この10円の値上げの背後には、複雑な要因が絡み合っています。
まず原材料費の上昇が一つ目の理由として挙げられます。
米の価格は2022年から2023年にかけて、それまでより約5%上昇しました。
これはウクライナ情勢による国際的な穀物価格の上昇や、
円安の影響によるものだと言われています。
……ここから「おにぎり一つで世界情勢が分かる!」
なんて記事も書けそうですが、話の主題がブレそうなので、とりあえずそこはスルーしておきましょう。
問題はおにぎりです。
具である鮭の価格はどうだったでしょうか?
・・・上がりました。
2023年、ノルウェー産サーモンの輸入価格が約15%も高くなったのです。
おにぎりと言ったら輪捨てはいけない海苔の価格も2023年、
前年比で約10%上昇しています。
人件費の上昇も、おにぎりが高くなった要因です。
近年日本全体で最低賃金が上がり続けており、
2023年10月からは全国平均で3.3%上昇し、時給1,004円になりました。
セブン&アイは全国約2万店舗を展開しているため、
この人件費の上昇は企業にとって大きな負担となります。
人件費に関しては、これまで低すぎたんだ!
……という意見は、ネットでは嫌われがちですが、
でも、あなたにだって不平不満を言う権利はあるんですよ?
公正な労働環境を作ることは健全な社会の実現につながり、
健全な社会の実現は社会人の義務なのです。
……なんて話もどうせ嫌われるし、おにぎりの値段の話に戻します。

三つ目の理由は、物流コストの上昇です。
燃料価格の高騰により、特に地方の店舗への配送コストが上昇しています。
具体的には2023年、燃料価格は約15%上昇しました。
「これだけ色々あったんだ!」と何となく理解するだけでも、
「おにぎりが10円でも値上がりすることは、ただごとではないのだ!」
というのが何となく伝わる気がします。
なにしろ作るのにお金がかかる=このままじゃ利益が出ません!
と、いうわけでおにぎりの値段を上げたセブン&アイ。
果たして利益が出たのでしょうか……。
それとも「10円高いの!?ほな買わんわ~」
という人が増えて、むしろ売り上げは減るのでしょうか?
……といったことを、投資家は真剣に考えます。
ここで『株価』が、大きく左右されるのです!
「手巻おにぎり 紅鮭」が値上げした直後……
2023年4月1日の終値が4,500円だったのに対し、
4月5日には4,350円まで下落しました。
これは、消費者の反応を懸念した投資家が株を売却したためです。
一見、150円しか下がってないじゃん!と思えますが、
これはセブン&アイの時価総額にして約1,320億円の減少を意味します。
これは中規模企業一社分の価値に相当する金額です。
おにぎり一つの値上げが、こんなにも大きな影響を与えるのです。

しかし、その後の四半期決算で興味深い結果が発表されました。
なんと、売上高は前年同期比10%増加していたのです!
値上げにもかかわらず、消費者の購買意欲
「て、手巻おにぎりが食べたい!紅鮭が食べたいぃいい!」」
という気持ちは衰えなかったようです。
この発表を受けてセブン&アイの株価は回復に転じ、
4月20日には4,700円まで上昇しました。
この350円の値上げは時価総額にして。
約3,080億円の増加を意味します。
これは大企業の一部門に匹敵する価値の上昇です。
わずか15日間でこれだけの変動が起こるのが、株式市場の特徴と言えるでしょう。
……以上のエピソードで、
おにぎり1個の価格変動が巨大企業の株価を左右する要因となり得ること。
おにぎりの値段一つに注目すれば、セブン&アイの株価が分かること……
それが分かる!と言うことはつまり……
あなたが既にエコノミストだ!と認めていただけますね!?
「いいや、まだだ!」と仰る方々も、
投資家たちがおにぎりの価格変動を通じて、
セブン&アイの経営状況や将来性を判断していることは、
分かっていただけたと……信じたい!
信じます!
と、信じたので!話を次に移します。
第3章:セブン&アイの株価から日本経済を読み解く!
次の話とはつまり、おにぎりから株価を見た次に、
株価から経済全体を見よう!という話でございます。
セブン&アイは大企業。
その株価変動は単なる一企業の業績を超えて、
日本経済全体の動向を反映している……
と申しましても、不自然に感じない方はいらっしゃらないでしょう。
なのでセブン&アイの株価の変動には、
消費動向の指標としての役割を、確かに果たしているのです。

セブン&アイの業績は日本の消費者心理を、そのまま映し出しています。
例えば2024年3〜5月期の連結決算では、純利益が前年同期比49%減の213億円となりました。
これは北米のマクロ環境悪化による、消費減退が響いたためです。
北米のマクロ環境悪化とは具体的に述べると、
インフレ率の上昇や金利の引き上げ、雇用市場の不安定化などを指します。
これらの要因が重なり、消費者の購買意欲が低下したのです。
特に低所得者層へのたばこの販売減少や、
ガソリン売上高の落ち込みが顕著でした。
同時に、国内のコンビニエンスストア事業も伸び悩みました。
日本国内の消費者心理が、ヒエヒエに冷え込んでいたのです。

雇用市場に置ける影響力も甚大です。
2024年の業績悪化を受けて、セブン&アイは大規模なリストラ策を発表しました。
百貨店では5店舗の閉店と2店舗の縮小、スーパーのイトーヨーカドーでは33店舗の閉店や他企業との提携を検討、
さらにセブンイレブンでも約1000店舗の不採算店の閉鎖や移転を検討する……
としています。
これによりグループ全体で約3000人の従業員削減が予想されています。
大規模な企業の大規模な雇用調整は、
日本の雇用市場全体に波紋を広げる可能性があります。
また、セブン&アイの価格設定は、
日本全体の物価動向を予測する上で重要な指標となります。
2022年7月から2023年6月の間に、
リニューアル発売された商品の44.1%に価格上昇が見られました。
これは日本全体のインフレ傾向を示唆しています。
日本銀行の統計によると、
2023年の消費者物価指数(CPI)は前年比2.3%上昇しました。
これは、日本銀行が目標としている2%のインフレ率を上回る数字です。
と、ここまでの内容で、
この記事がセブンイレブンのおにぎり……
もとい親会社のセブン&アイホールディングスを取り上げたのが、
大規模な企業だから……というのは御納得頂けたのではないでしょうか?
大企業ゆえ、セブン&アイの業績は中小企業への波及効果も大きくなります。

セブン&アイと取引のある多くの中小企業にとって、
セブン&アイ自体の業績は死活問題です。
セブンイレブンの弁当やおにぎりを製造する中小企業は全国に数多く存在します。
セブン&アイの業績悪化は、
これらの企業の経営にも直接的な影響を与えることになります。
消費者行動の変化も、セブン&アイの株価を通じて読み取ることができます。
例えば、健康志向の高まりによる商品ラインナップの変更や、
環境に配慮した包装材の採用などは、
日本社会全体の価値観の変化を反映しています。
これらの変化が株価にどのように影響するかを観察することで、
日本社会の動向を把握することができるのです。
そして大企業ならでは……という点では、
株価にも経済にも関わるような大きな事件も起きてしまうわけですます。
それも今回、セブン&アイを取り上げた理由なのです。

つい数か月前、2024年8月に、
カナダのコンビニエンスストア大手アリマンタシォン・クシュタールが、
セブン&アイに買収提案を行いました。
すると株価はどうなったか!といいますと……
なんと23%も急騰しました。
この急騰は日本企業全体の価値に対する。
国際的な評価の高まりを示唆しているともいえるでしょう。
一方、2024年10月にはセブン&アイは、
米国子会社スピードウェイの売却を完了しました。
この取引は約210億ドル(約3.1兆円)規模で、
米国の反トラスト法に対応するためのものです。
この大規模な資産売却はセブン&アイの株価に大きな影響を与え、
発表直後に株価が5%上昇しました。
これらの国際的な動きはセブン&アイの株価変動を通じて、
日本経済にも影響を与える分かりやすい事態です。
例えば米国での大規模売却による資金は、
日本国内での新規事業投資や株主還元に充てられる可能性があり、
それが日本経済の活性化につながる可能性があります。
また、セブン&アイは中国市場への進出を加速しています。
これは日本企業の海外展開の成功例として注目され、
他の日本企業の海外戦略にも影響を与える可能性を示唆しているでしょう。
このようにセブン&アイの国際的な動向は、
単に一企業の問題ではなく、
日本経済全体に波及効果をもたらす重要な要素となっているのです。
結論
おにぎりの価格変動を見たあなたは、
セブン&アイの株価変動を覗いたのちに、
日本経済全体の姿を垣間見ました。
この過程であなたは、
経済がいかに複雑で相互に関連し合っているたかも、
見つめることが出来た……のではないでしょうか?
くりかえしますが、あなたは既にエコノミスト、経済人です。
ただ当たり前に、おにぎりを買うだけのことであっても、
あなたは経済に加担しているのです。
沢山物を売り買いしているから=経済を回しているから偉い!
なんて理屈を並べる人のことはいったん無視してください。
そんなことを誇らなくてもいいのです。
あるいはそんなことが出来なくてシュンとしなくても、大丈夫。
あなたはとっくの昔に社会を動かす、参加する一員なのです!