日本半導体産業の現状
かつて世界の半導体産業を、日本がリードしていたことをご存知でしょうか?
あるいは今でもリードしている……なにしろニッポンはギジュツタイコクだし!と、何とはなしに思っている人がほとんどかもしれません。

事実1980年代、日本の半導体メーカーは世界市場の約50%のシェアを誇る大国であり、日本電気(NEC)や東芝日立製作所といった日本企業が、世界のトップ企業として名を連ねていました。
しかし今、世界の半導体市場で日本企業のシェアは、わずか10%程度にまで落ち込んでいます。
かつての栄光は遠い過去の物語となり、日本の半導体産業は、長い冬の時代に突入しているのです。
半導体が支える現代文明
そもそも半導体とはなんでしょうか?

半導体は現代社会のデジタル技術を支える、根幹的な電子部品です。スマートフォンやパソコン、家電製品に自動車など、私たちの身の回りの、あらゆる電子機器に組み込まれています。
例えばスマートフォン一つとっても、その中にはプロセッサやメモリ、通信用チップなどに、複数の半導体が搭載されています。これらが協調して動作することで、スマートフォンは高度な情報処理や通信が可能になるのです。
つまり半導体が無くては電子機器は成り立ちません。そして今や人類にとって電子機器のない生活など考えられません。半導体は、現代社会を支える基盤なのです。
となると、半導体の産業、経済面での重要性の高さも明らかでしょう。2021年に世界の半導体市場規模は、約5,560億ドル(約61兆円)にまで達しており、今後も成長が見込まれています。
そんな中で現在、前述のとおり日本のシェアは10%。かつて50%にまで達していたことを思えばいささか寂しい。果たしてどいう経緯でこんな事態になったのでしょう?
日本半導体産業の栄枯盛衰
かつて日本が半導体大国だったのは、高い技術力と品質管理能力、長期的視点での研究開発、設備投資や政府の支援等々が、確かに保証されていたからです。特に1976年に始まった国家プロジェクト「超LSI技術研究組合」は、官民一体となって半導体技術の開発を推進し、日本の技術力向上に大きく貢献しました。
しかし1990年代後半から日本の半導体産業は、急速に衰退していきました。プラザ合意後の急激な円高による価格競争力の低下、半導体の主要市場への対応遅れ、バブル崩壊後の投資縮小……。そして政府による産業政策の失敗などがその要因として挙げられます。特に1986年に締結された「日米半導体協定」は、日本市場で外国製半導体のシェア拡大を義務付けるなど、日本企業にとって不利な内容でした。
1990年代後半以降になると、政府は「選択と集中」を掲げ、半導体産業への支援を縮小しました。また、産業政策の重点をソフトウェアやITサービスに移したことも、半導体産業の衰退を加速させた要因です。国内企業の統合や再編も、十分に後押し出来ませんでした。
これらの企業の戦略ミスと、政府の政策転換が相まって、日本の半導体産業は、世界の潮流から取り残されていったのです。

一方、台湾のTSMCや韓国のサムスン電子は積極的な投資と技術革新を続けました。TSMCは1987年の設立以来ファウンドリビジネス=他社の設計した半導体チップの製造を請け負うスタイルを確立し、急速に成長た企業です。
サムスン電子も1990年代からメモリ分野で大規模投資を行い、世界トップの座を獲得しました。
日本企業が投資を控える中、両社は最先端技術の開発に巨額の資金を投じ続けたのです。
繰り返しになりますが、半導体は現代社会を支える基盤技術であり、その生産能力は国全体の経済力や安全保障にも直結します。自動車や家電製品など、多くの商品生産に支障が出ており、その影響は私たちの日常生活にも及んでいます。さらに近年では米中貿易摩擦や新型コロナウイルスの影響で、世界的な半導体不足が問題となっているのです。
このような状況下で日本が最先端な半導体を自国で生産できないことは深刻な問題であり、経済安全保障の観点からも危機的な状況です。
希望の星、ラピダス
そんな中、日本の半導体産業復活を担う、新たな企業が登場しました。

それが「ラピダス」です。
ラピダスは2022年8月10日に設立された新しい半導体メーカーで、日本政府から強力な支援を受けています。ラピダスという社名には「速い」という意味が込められており、代表取締役社長の小池淳義氏がこの名前を提案しました。
小池氏は日立製作所で半導体部門の技術開発に従事し、最終的には半導体グループの生産技術本部長まで昇進しました。更に、2000年、日立製作所と台湾UMCの合弁会社トレセンティテクノロジーズの取締役社長に就任した後、米国ウエスタンデジタル・ジャパンのプレジデントなどを経て、ラピダスの社長に就任しました。。
ラピダスの設立には、トヨタ自動車、ソニーグループ、NTT、デンソー、キオクシア(旧東芝メモリ)、ソフトバンクグループ、三菱UFJフィナンシャル・グループ、NECといった、日本を代表する企業が名を連ねています。まさにオールジャパン、国を挙げた取り組みといえるでしょう。富士山をイメージしたロゴマークも、日本独自の技術力と、美意識を象徴しているそうです。
世界最先端を目指して

ラピダスの最大の目標は、「2ナノメートル(nm)以下」という超微細な回路を持つ、最先端ロジック半導体の開発と製造です。
現在この技術を持つ企業としては、前述の台湾のTSMCと韓国のサムスン電子が注目されています。彼らはすでに3nm技術の量産を実現しており、2nm技術の開発も進んでいます。
一方で日本は現在、40nm世代の技術にとどまっています。この技術の差を埋めることが。ラピダスの急務となっているのです。

もしラピダスが成功すれば、自動運転やAI(人工知能)、量子コンピュータなど、未来技術に不可欠な部品を日本国内で生産できるようになります。
そうなれば日本は再び世界市場で、大きな存在感を示すことになるでしょう。
ラピダスは設立からまだ日が浅いですが、着実に歩みを進めています。2023年4月には、北海道千歳市に研究開発センターを設立しました。IBMとの技術提携も発表され、本格的に2nm技術開発へ向かっています。2027年には量産開始を目指し、同じく千歳市内に工場建設も計画中です。
日本政府も全面的な支援を約束しています。約3,300億円もの資金投入を決定した後、今年、2024年には、最大5,900億円もの追加支援も決定しました。累計額は1兆円近くになる見込みです。
このような背景からも、ラピダスに対する多くの期待が感じられます。
ラピダスの抱える課題
ラピダスには多くの課題も存在しているのです。
まず第一に技術面での遅れを取り戻せるかという問題です。先に述べた通り、TSMCやサムスン電子はすでに、2nm以下の技術開発を進めています。その差を埋めることは容易ではありません。
また、人材確保も重要な課題です。最先端の半導体技術には高度な専門知識が必要ですが、日本国内には十分な人材がいない、と言われています。海外から優秀な人材を誘致することも、今後難しくなる可能性があります。
さらに巨額投資に対する懸念もあります。2027年量産開始までには総額5兆円規模の投資が必要だろうとされていますが、この巨額投資に見合う成果をはたして得られるかどうか、不安視する声も上がっています。
まとめ:期待と展望
課題が掲げられ、不安な声が起こるのも、ラピダスプロジェクトが日本半導体産業の復活に向けた、最後の挑戦とも言えるからです。
もし成功すれば、日本経済全体に大きな影響を与えるでしょう。一方で失敗した場合、巨額の税金が無駄に使われた……と批判が出る可能性もあります。そうなれば日本全体その物が、大きく信頼を損ないかねません。
それでもラピダスプロジェクトは日本が世界市場で、再びリーダーシップを取るための大きな可能性を秘めているのもたしかです。
このプロジェクトの成否は日本の未来に、直接的な影響を与えるでしょう。私たちはこのプロジェクトの行方を注視し続ける必要があります。これは単なる一企業の挑戦ではありません。日本全体の技術力と、未来を示す機会でもあるのです。
ラピダスの挑戦が日本のデジタル社会の未来を、明るく照らす光となることを期待しましょう!