
2025年4月、東京都内の有名ホテル15社が「カルテルの疑い」で公正取引委員会から警告を受ける方針となった――
このニュースは、多くの人に衝撃を与えました。帝国ホテルやホテルニューオータニ、オークラ東京、パレスホテル東京など、名だたる高級ホテルを運営する会社が、ほぼ毎月集まり、客室稼働率や平均単価、今後の価格設定方針などの内部情報を持ち寄って共有していたのです。
表立って「値上げしよう」と合意した証拠はありませんでしたが、こうした情報交換が結果的に料金の高止まりや競争の減少を招く恐れがあるとして、公正取引委員会は独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで警告する方針を固めました。
なぜ「情報交換」だけでも問題になるのでしょうか?
そして「カルテル」とは具体的にどんな行為なのか、私たちの生活にどんな影響があるのでしょうか。
この身近なニュースをきっかけに、カルテルについてやさしく、親しみやすく解説します。
カルテルとは?――企業の「こっそり協力」はなぜダメ?

カルテルとは、複数の企業が価格や販売量、販売地域などについて話し合い、協力して市場での自由な競争を妨げる行為のことです。
たとえば、ライバル同士の企業が「うちの商品、同じ値段で売ろう」「この地域ではお互いに手を出さないようにしよう」と約束し合う――これがカルテルです。
カルテルがもたらす悪影響
- 価格が本来より高くなる
競争がなくなれば、企業は値下げする必要がなくなり、消費者は高い値段で商品やサービスを買わされることになります。 - サービスや商品の質の向上が止まる
競争がないと、企業は努力してサービスを良くしたり、新しい商品を開発したりするインセンティブが薄くなります。 - 消費者の選択肢が減る
価格や内容が横並びになり、消費者にとって魅力的な選択肢が減ってしまいます。
このように、カルテルは消費者の利益を損ない、市場の健全な競争を壊してしまうため、日本では「独占禁止法」で厳しく禁止されています。
カルテルが成立する条件
「ちょっと情報を話しただけでカルテルになるの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
実は、カルテルと認定されるにはいくつかの条件があります。
カルテル成立の主な条件
- 事業者同士の合意
企業間で価格や販売量などについて「こうしよう」と話し合って決めること。 - 相互拘束性
合意した内容をお互い守り、協力し合う姿勢があること。 - 競争制限
その合意によって、市場での自由な競争が妨げられること。 - 公共の利益に反する
結果として消費者が損をすること。
直接「値上げしよう」と決めなくても、情報を共有し合い“暗黙の了解”で価格が上がる場合も、カルテルと見なされることがあります。
カルテルを行った場合のリスク
カルテルが発覚すると、企業にはさまざまなペナルティが科されます。
- 排除措置命令
公正取引委員会から「違反行為をやめなさい」と命令されます。 - 課徴金(罰金)
違反した企業は国に多額の罰金を支払う必要があります。 - 社会的信用の失墜
ニュースで報道されるなど、企業のイメージダウンは避けられません。

もしカルテルに関わってしまったら…「リニエンシー制度」
違反に気づいた企業が自ら公正取引委員会に申告した場合、課徴金が減免される「リニエンシー制度」もあります。
これは「早く違反を申告した企業ほど、罰が軽くなる」という制度で、「悪いことをしたら、すぐに正直に申告しましょう」というメッセージでもあります。
最近の事例で学ぶ!――ホテルと電力会社のケース
ホテルカルテル疑惑
今回の都内ホテル15社の事件では、営業担当者らが毎月集まり、客室稼働率や平均単価、今後の価格設定方針などを共有していました。
表立って「値上げしよう」と合意した証拠はありませんが、こうした情報交換が各社の料金設定で足並みをそろえることにつながり、競争が働きにくくなる恐れがあると判断されました。
背景には、コロナ禍明けのインバウンド(訪日外国人観光客)の増加によるホテル料金の高騰や、消費者の負担増大がありました。
「情報交換だけでもカルテルにつながる危険がある」という教訓となる事件です。
電力カルテル事件
2018年10月から2020年10月にかけては、中部電力、中国電力、九州電力などが関西電力と「お互いの供給区域で顧客獲得競争をしない」ことを約束していました。
公正取引委員会はこれを「明らかなカルテル」と認定し、排除措置命令や総額1000億円を超える課徴金を課しました。
この事件を受けて、電力・ガス取引監視等委員会は、関係企業からの報告徴収やヒアリング、ガイドラインの改定など、再発防止や監視体制の強化に乗り出しています。
もっと身近な例で考えてみよう
近所のケーキ屋さんでカルテル?

例えば、あなたの街にケーキ屋さんが2軒あるとします。
本来なら、A店が「うちは300円で売るよ」、B店が「うちは280円で勝負!」と競争して、消費者は安くておいしいケーキを選べます。
でも、もしA店とB店が「お互い350円で売ろう」とこっそり約束したらどうなるでしょう?
どちらの店も値下げせず、消費者は高いままのケーキを買うしかなくなります。
これが「カルテル」のイメージです。
ガソリンスタンドやスーパーでも…
同じようなことは、ガソリンスタンドやスーパーでも起こりえます。
「うちのガソリン、今日は150円で売るよ」「じゃあ、うちも同じにするね」と話し合ってしまえば、価格競争がなくなり、消費者は損をしてしまいます。
カルテルの歴史をひもとく
カルテルの歴史は意外と古く、19世紀のヨーロッパにさかのぼります。当時、鉄鋼や石炭などの産業で、企業同士が互いに価格や生産量を調整し合うことで利益を守ろうとしたのが始まりです。
産業革命で大量生産が進むと、企業間の競争も激化。その中で「みんなで協力して儲けよう」という発想が生まれ、カルテルが広がりました。
しかし、カルテルが広がると消費者の負担が増えたり、経済全体の活力が失われたりするため、各国で取り締まりが強化されるようになりました。アメリカでは1890年に「シャーマン法」という独占禁止法が制定され、日本でも1947年に「独占禁止法」が成立。
こうして、カルテルは世界中で「やってはいけないこと」として扱われるようになったのです。

カルテルと企業倫理
カルテルは単なる法律違反にとどまらず、企業の社会的責任や倫理観とも深く関わっています。
企業は「社会の公器」として、消費者や取引先、地域社会など多くのステークホルダーに対して誠実であることが求められます。
もしカルテルに手を染めれば、
- 信頼してくれていたお客様を裏切る
- 取引先や従業員の誇りを傷つける
- 社会全体の公正な競争を損なう
ことになります。
最近は「コンプライアンス(法令遵守)」や「CSR(企業の社会的責任)」が重視される時代。
企業のトップだけでなく、現場の一人ひとりが「カルテルは絶対にダメ」という意識を持つことが、健全な社会づくりにつながります。
カルテルを防ぐための社会の仕組み
公正取引委員会の役割
日本では「公正取引委員会」という独立した機関が、企業の取引を監視し、不当なカルテルや独占行為を取り締まっています。
もし怪しい動きがあれば、調査や立ち入り検査を行い、必要に応じて排除措置命令や課徴金を科します。
電力・ガス取引監視等委員会
電力やガスのような生活インフラ分野では、専門の監視機関も設けられ、企業の情報交換や市場の健全性をチェックしています。
特に、電力自由化以降は競争が激しくなり、カルテルのリスクも高まっているため、監視体制が強化されています。
海外のカルテル事例
カルテルは日本だけでなく、世界中で問題になっています。
ヨーロッパの航空会社カルテル
ヨーロッパでは、複数の航空会社が「燃油サーチャージ」を一斉に引き上げるよう話し合い、EUから巨額の罰金を科されたことがありました。
この事件も、消費者の負担が大きくなった典型的な例です。
アメリカのIT企業カルテル

アメリカでは、IT企業同士が「お互いの社員を引き抜かないようにしよう」と約束し合い、労働者の賃金や転職の自由が制限されたとして、大きな社会問題になりました。
このように、カルテルは価格だけでなく、雇用やサービスの自由にも悪影響を与えるのです。
Q&Aコーナー:カルテルについてもっと知りたい!
Q1. カルテルと談合はどう違うの?
A. どちらも企業同士の不正な協力ですが、談合は「公共工事の入札」などで特に使われる言葉です。カルテルはもっと広い意味で、価格や数量、販売地域など様々な分野に及びます。
Q2. どうしてカルテルがバレるの?
A. 内部告発や、リニエンシー制度を利用した自己申告、消費者からの通報、取引データの不自然な動きなど、さまざまなきっかけで発覚します。
Q3. カルテルがあると消費者はどう困るの?
A. 価格が高止まりしたり、サービスの質が向上しなかったり、選択肢が減ったりします。つまり「損をする」のです。
Q4. 企業はなぜカルテルに手を出すの?
A. 競争が激しいと「みんなで協力した方が楽に儲かる」と考えてしまうことがあります。しかし、これは社会全体にとって大きなマイナスです。
消費者ができること
「カルテル」と聞くと、どうしても企業や公正取引委員会など“遠い世界”の話に思えるかもしれません。
でも、消費者にもできることはたくさんあります。
1. おかしいと思ったら声をあげる

例えば、「どの店も急に同じ値段になった」「サービスの質が一斉に下がった」など、不自然なことに気づいたら、消費者センターや公正取引委員会に相談することができます。
実際、消費者からの通報がきっかけでカルテルが発覚した例も少なくありません。
2. 情報をよく見て選ぶ
価格やサービス内容を比較したり、口コミを参考にしたりすることで、健全な競争を応援できます。
消費者が「賢く選ぶ」ことも、市場の健全化につながるのです。
もし自分の職場でカルテルを見かけたら
万が一、自分の職場で「価格を合わせよう」「この地域では競争しないようにしよう」といった話し合いが行われていたら、どうすればいいのでしょうか?
まずは、上司や社内のコンプライアンス窓口に相談しましょう。
それでも解決しない場合は、公正取引委員会の「企業コンプライアンス相談窓口」や「内部通報制度」を利用することもできます。
リニエンシー制度(自主申告による課徴金減免)もあるので、「正直に申告する」ことが、企業と社会の未来を守る第一歩です。
カルテルのない社会をめざして
カルテルは、私たちの暮らしや社会にとって大きなマイナスです。
でも、法律や監視機関、企業の努力、そして消費者の目によって、少しずつ「公正な競争」が守られています。
私たち一人ひとりが「カルテルはみんなの敵」という意識を持ち、
- 企業は誠実に
- 消費者は賢く
- 社会全体で見守る
ことが、より良い未来につながります。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!
カルテルの仕組みや歴史、社会とのつながりについて、少しでも理解が深まれば幸いです。
これからも、身近な法律や社会のルールについて、わかりやすくお伝えしていきますので、ぜひご期待ください。

【参考】
- NHKニュース「都内大手ホテル15社が料金情報を共有」
- 日本経済新聞「帝国ホテルなど大手15社、カルテルの恐れ 公取委警告へ」
- 共同通信「有名ホテル15社カルテルの恐れ 都内大手、客室単価や稼働率共有」
- 公正取引委員会「過去の動き(EU)」:欧州委員会によるガス絶縁開閉装置、合成ゴム、アスファルト原材料、エレベーター、航空貨物運賃などのカルテル摘発事例
- NNA EUROPE「欧州一般裁、航空貨物カルテル巡る罰金支持」
- 日本経済新聞「欧州委、日航など航空貨物11社に制裁金 価格カルテルで」
- Corporate Legal「ANAなど航空会社が価格カルテルで提訴される」
- 公正取引委員会「独占禁止法のあらまし」
- 消費者庁「消費者のための独占禁止法ガイド」
(※本記事は2025年4月時点の情報をもとに作成しています)